「ウッドショック」は国産材利用拡大のチャンス!?|スギを梁に使おう!! 

雑記

このところ、「ウッドショック」の問題が、木材、住宅業界を震撼(しんかん)させており、一般の方でもこの言葉が知れ渡る様になってきた。

なにせ、我が家の👹も知っているほどだから、…..もうびっくり。

 

ウッドショック」とは、一言で言うと、建築用木材が不足&高騰している現象のことだ。

 

かつてのリーマン・ショック直前に巻き起こった木材価格高騰などに続き、今回は「第3次ウッドショック」と呼ばれている。コロナ禍で北米の新築住宅需要や増改築需要が高まったことを契機に発生した様である。

こんなところにもコロナの影響が出ているのだ。

 

ボクの職場(公設研究機関)にも、新年度になって、木材と住宅双方の企業から「ウッドショック」に関連する技術相談を受けることが多くなってきた。

色々とお話しを伺っていくとその深刻さが伝わって来るが、いずれにせよ、直ちに効果的な対策を講じることは簡単ではなさそうだ。

当面は、売り手側(木材屋さん)同志の連携により、買い手側(住宅メーカーさん)に対する的確な情報提供と可能な限りのフレキシブルな対応が急務と言えるだろう。

 

…..と言うことで、今回は、技術者目線から見た解決策の一つに触れてみたい(たまには研究者らしいところを…..)。

かなりマニアックになるので、興味のあるところだけ、飛ばし飛ばし読んでいただければ幸いである。

技術的目線で見た「ウッドショック」解決のポイント

いきなりだが、以下の情報が最大のポイントと言えそうだ。

供給不足が最も深刻なのは、「梁(はり)」に用いる木材。もともと輸入材の占める割合がほとんどで、国産材の生産量が限られている部材だ。構造計算にも関係する部材なので、設計上も代替が容易ではない「日経BP」より

 

実際、以下のグラフを見ても、建物の部材別シェアは、梁が28%とダントツなのに、国産材率が最低の8%しかない。何とも悔しい限りである。

 

「梁(はり)」に国産材が使われない原因の一つに、ヤング係数※が表示されている材(JASでは「機械等級区分材※」と言う)が非常に少ないことが挙げられる。これは、強度だけではなくヤング係数も分かっていないと正しい構造計算が出来ないためだ(理由は後述する)。

※ヤング係数は、材料の変形しにくさを表す指標の1つ。この値が大きければ、より変形しにくくなる(曲げの場合はたわみにくくなる)。また、※機械等級区分材は、ヤング係数によって強度区分されたJAS材を言う(詳細は「製材の日本農林規格」を参照)。

 

もう一つは(こっちの方が深刻かも?)、国産材(特にスギ)の強度やヤング係数が非常に低く、そもそも梁材には適さない、…..と考えられてきた(←ここ大事!)、ことも原因と考えられる。

日本の人工林面積のうち、スギ・ヒノキ林が約7割を占めている(林野庁データ)。

 

……いけね、だんだん論文口調になって来た😓。…..まあいいや。

 

このあたり、冒頭でも言った様に、売り手側(木材屋さん)側から買い手側(住宅メーカーさん)に対する的確な情報提供を提供することが非常に重要な所以と言えるだろう。

つまり、「梁として使うための情報を提供すればいい」のだ。

…..具体的に言えば、スペンと荷重条件が○○であれば、断面を○○とすることにより、スギでもOK、ヒノキでもOK、と言う数値的なデータを明示することが技術的な解決策として非常に効果的、と言えそうだ。

これにより安心して使ってもらうことが出来るのだから。

 

…..以下、話を具体的に進めよう。

梁の大きさはどのように決まる?

さて、構造計算が必要な場合、梁の大きさはどのように決まるのだろう?

以下、ザックリ説明してみる。

梁の大きさは、梁に加わった力で壊れてはいけないのはもちろん、施工後の床の変形や建具開閉時の不具合が起こらないように決められる。具体的には、以下の様な計算手順だ。

  1. 梁に加わる荷重を計算
  2. 断面寸法を仮定して各種応力(曲げ、せん断)を計算
  3. 各種応力が「許容応力度※」を超えていないか(強度に関連)、たわみ量が許容値を超えていないか(ヤング係数に関連)を確認
  4. 以上の計算の結果、各種応力、たわみ量のいずれかが許容値を超えていれば、断面の大きさ、長さ、梁の間隔などを変えて再計算
※許容応力度とは、住宅などの居住期間中に予想されるさまざまな外力に対し、構造物の各部材に生じる応力(抵抗する力)を超えないように定められた構造計算上の限界点をいう。

 

以上の手順を見れば、強度だけではなくヤング係数も分かっていないと構造計算が出来ないとした前述の説明もご理解いただけるかと思う。

どうやったらスギ、ヒノキを梁に使える?

大梁(おおばり)に注目

現在、構造計算の必要な木造建築物の梁、特に2階建て住宅の床を支える「大梁(おおばり)」には外材(ベイマツ、オウシュウアカマツ、スプルース等)による「構造用集成材」を使うことが多い。

強度ヤング係数が分かっており、それらの値が比較的高いからだ(流通のお話もあるが、ここでは省略)。

ところが、これらの外国産集成材の価格は、2021年7月~8月には、20年末比で50%増になりそうなのだ(銘建工業営業部長、柳征治郎氏)。

 

……ということで、ここでは、さしあたり「大梁(おおばり)」を対象に、外材による「構造用集成材」を国産製材(スギ、ヒノキ)に代替できるか、実際に見てみよう。

具体的には、前述した、スペンと荷重条件が○○の場合、断面の大きさををどの程度増やせば、スギやヒノキでもOKと言う数値的なデータを示してみたい(とりあえず、ここでは「断面を増やすのはイヤ!」と言う話は無視する)。

それと、ここまで言っといてナンだが、構造計算の必要な木造建築物は条件が複雑になるので、ここでは単純に「スギ、ヒノキ」でも十分な例を示す例として、一般住宅を例に検討してみたい(これも1例だが…..)。

 

計算シートを作ってみた

木材屋さんからユーザーさんに説明する場合、あーだこーだと推測の話をするのではなく、数値を示しながらやりとりが出来るのが理想だろう(できたら目の前で)。例えば、以下の様な感じ。

ユーザーさん: ここはE105-F300(※)だわ。スギ、ヒノキは弱いからダメでしょ。スパンもあるし。

木材屋さん: ちょっと待ってね。計算してみる…..。

(数秒後)

木材屋さん: えっと、ヒノキ(E90)なら同じ断面でOK、スギ(E70)だと「梁せい(高さ)」を3cmアップすれば基準をクリアするけど、どーする?

ユーザーさん:え?あ、ホントだ。それならスギ(E70)で行けそうだね。ワーイ\(^o^)/。

 

※E105-F300は、構造用集成材のグレードの一つで、おおよそ、ヤング係数10.5kN/mm²、基準強度30N/mm²程度の材を言う(詳細は「構造用集成材の日本農林規格」を参照)。

 

…..上の仮想やり取りは、以下の様な簡単な構造計算シート(例)をもとにしている。技術相談用にちょっと作ってみた[参考:構造計算書で学ぶ木構造 金物設計の手引き(学芸出版社)]。

 

計算シート(左から構造用集成材、ヒノキ機械等級区分材、スギ機械等級区分材)

判定結果(計算シートに入力することによって自動計算)

 

計算シートの使い方を説明すると、以下の様な手順になる。細かく説明するとかえって分かりにくくなりそうなので、大雑把に示そう。

基本は、計算シートのうち色のついたところだけ(特に断面の大きさ)を入れ替えれば、判定が可能と考えてもらって構わない。色々入れ替えて適否を見るだけなので。

 

梁に加わる荷重を計算(建築基準法施工令第85条1項)

スパン3.6m、荷重負担幅0.9mとして計算すると、設計荷重は以下の様になる。

① 強度基準: 床荷重+内壁荷重=9752N

  • 床荷重:積載荷重(1960N/m²)×[スパン(3.6m)×荷重負担幅(0.9m)]=6350N
  • 内壁荷重:内壁の固定荷重(350N/m²)×内壁面積(3.6m×2.7m)=3402N

② たわみ基準: 内壁荷重+たわみ用床荷重=7484N

  • 内壁荷重:強度基準と同じ
  • たわみ用床荷重:積載荷重(1260N/m²)×[スパン(3.6m)×荷重負担幅(0.9m)]=4082N

※この部分は、1度決まれば再び入力する必要はない。

断面寸法を仮定して各種応力(曲げ、せん断)を計算

あとは、計算シートの「断面(幅と高さ)」、「曲げ、せん断基準強度」、「ヤング係数」を入力するだけだ。

なお、「基準強度」は、製材では建設省告示1452号、集成材では建設省告示1024号に記載されているので、それらの数値を入力する。また、「ヤング係数」はグレードに記載されているそのままだ(E90、E70で、Eはヤング係数のこと)。

ここでは、計算式は省略して……、判定結果のみ見てみよう。詳しく知りたい方は、先ほど紹介した構造計算の本とかを見て欲しい。

 

めんどくさくなっただけだろうが!!

 

ヒー(当たってる)

 

判定結果は?

梁の断面計算では、少なくとも以下の3項目をチェックしなければならない。

  1. 設計条件等による「曲げ応力」が「曲げ許容応力度」を下回ること
  2. 設計条件等による「せん断げ応力」が「せん断許容応力度」を下回ること
  3. 設計条件等による「たわみ」がスパンの1/250を超えないこと(建設省告示第1459号)
許容応力度=基準強度×(1.1/3)

 

以上をチェックしたところ、今回の荷重条件(スパン3.6m、荷重負担幅0.9m)では以下の様になった。

構造用集成材(E105-F300)の場合、断面が105×210(㎜)で条件をクリア計算シートと以下の判定結果を参照)。

ヒノキ製材(E90)も、構造用集成材と同じ断面で条件をクリア計算シートと以下の判定結果を参照)。

スギ製材(E70)では、断面が105×240(㎜)で条件をクリア計算シートと以下の判定結果を参照)。

 

こんな感じで部材の種類と数字(断面等)を入れ替えれば、ヒノキやスギでも結構使えることが分かるはずだ。

結構楽しいかも?

 

ここで、どうしても付記しておきたいことがある。

スギ、ヒノキは決して弱くはない。むしろ強度の面から言えばベ〇〇ツやべ〇〇ガなどの「外材」を上回ることが多いのだ(建設省告示1452号を見て欲しい)。必要な断面の大きさは、ほとんど「ヤング係数」で決まることに注意して欲しい(ヤング係数=強度ではない)。

 

おわりに

以上、「ウッドショック」を解決するための技術者目線から見た解決策の一つに触れてみた。

今回のような流れを参考にお話を進めて行けば、多少なりとも売り手側(木材屋さん)側から買い手側(住宅メーカーさん)に対する情報提供の助けになるかも知れない。

 

なお、ここで用いた「計算シート」は、もちろん完全なものではない(エクセルに詳しくないのが痛い><)。今後も少しづつアップデートしていくつもりだ。

また、ひょっとして、どこかに訂正が必要な個所があるかも知れない。そのような場合で、もし、ご指摘していただけるのであれば、「コメント」欄からでもご連絡いただくと大変ありがたい。

 

 

おわり。

 

 

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