今日は、のっけから心霊話を……
新築の木造住宅に住んでしばらくすると、夜中に
「パキッ」
「ピシッ」
…..と言う、突然の大きな音を発生することがある。
びっくりして、布団から飛び起きたり、…..とか経験のある方もおられるのでは?
これは、いわゆるラップ音と言って、そこには、髪を振り乱した幽霊が……
……まあ、夏なので、この手の話題もイイかな、とも思ったのだが、この音は、心霊現象ではない(たぶん)。
主として、建物を構成する木材(柱や梁など)に乾燥割れ(干割れ)が発生する時の音だ。
今日は、以下の様なお話をしていきたい。
- 「パキッ」の原因、および木材の乾燥割れ(干割れ)の簡単なメカニズム。
- 乾燥割れは強度低下の原因となるか?
おそらく、以下の様な方に、お役に立てると思う。
- 住宅内で発生する「パキッ!!」という音がすごく気になっている方
- これから、新築の木造住宅を建てる予定の方
- 柱や梁の乾燥割れ(アイキャッチ画像を参照)によって強さが低下する、もっと言えば「壊れるのでは?」と心配している方。
「パキッ!!」の原因は?
木材の中には水がたくさん!
「パキッ」とか「ピシッ」と言う突然の発生音は、多くが木材が乾く過程で、ある水分状態に達した時に発生する音だ。
まずは、「パキッ」の原因を知るために、木材中の水を見てみよう。
下の図に示す様に、木材の中には2種類の水が含まれている。そのうち一つは、細胞の空げき(ただの穴)に含まれる水(自由水)、もう一つは、細胞壁の中に入り込んでいる水(結合水)だ。
そして、木材を乾燥すると、以下のプロセスで、水が抜けていく(図を見ながら説明)。
- 水がいっぱいの状態。自由水が抜ける(生材)
- 自由水がなくなったが、結合水が満杯の状態(繊維飽和点)
- 大気中で最後に落ち着く水分状態(気乾状態)
- 水が全くない状態(全乾状態)←サウナ風呂のような環境下じゃないとあり得ない
このプロセスで、結合水のみとなった時点(繊維飽和点)から大気中で安定する含水率 (気乾状態)までの水分減少時に木材は縮み始め、割れることがある。
言葉を換えれば、新築時に未乾燥材を使うと…..
どんな木材が割れやすい?
乾燥割れを生じ易いのは、真ん中付近に心(髄)のある「心持材」だ。
なぜか?
木材は、断面中の年輪の向きによって収縮割合が全然異なり、接線方向が半径方向の2倍も収縮する(これを「収縮異方性」という)。
上の図で分かる様に、「心持材」は、外側4辺とも年輪に対して接線方向で、髄から外側へは半径方向になっている。
…..これが「心持材」が割れやすい最大の理由だ。
どうやって割れる?
もう、お分かりいただけたかも知れないが、以下の様な条件と流れで「パキッ」、つまり割れが発生する。
- 未乾燥材を用いる。
- 先ず外側から乾く(外側だけ収縮しようとする)
- 接線方向(外側4面)の方が収縮しやすいので、外側の方が大きく縮もうとする。
- つまり、外側は「のけぞりたい」が、内部が邪魔する。
- 我慢できなくて、細胞間が分離し、…….
「パキッ」
となる。
お分かりいただけただろうか?
つまり、「パキッ」の原因は、お化けではないのだ(…..たぶん)。
割れた材の方が強い!!
さて、乾燥割れを生じた材は、「弱い」のだろうか?
実際に、実験で確かめてみたので、さらっと説明する。
割れの評価方法は、(材面の割れ長さ合計)/(材の長さで)✖️100(%)とした。
実験条件は、以下のとおりだ。
割れの測定後、以下の曲げ試験機(東京衡機製造所製)を用いて全部壊し、曲げ強さを求めた。
得られた結果を以下のグラフに示す。
なんとなんと、
と言う結果になっている
信じられないかも知れないが、データは嘘はつかない。ましてや忖度もしない。
理由は簡単だ。
なのだから…..(つまりほとんど「目切れ」がない)。
逆に…..乾燥割れしにくい材は繊維(木目)が傾斜している。つまり
「目切れ」が多く曲がりやすい
と言うことになる。
おわりに
乾燥割れしすい材の強度は、むしろ高いことが多い。
…..もちろん、だからと言って、割れの多い材を推奨するわけではない。やっぱり、見た目が良くないし、施工性に支障をきたすこともある。なので、製材所の皆さんも、乾燥割れのない木材を生産しようと、日々努力をされている。
この原稿で書きたかったことは、特に、建物が竣工したあとの話で、
….ということだ。
おわり
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