皆さんは、ご自分の家の「柱」を見て、
長いこと屋根を支えてるけど、大丈夫なのかな?
とか思ったことはないだろうか?
この手の相談がたまに来る。
特に「スギは弱いから柱に使えないんじゃ?」などと言われたりする。
スギの研究者としては、「待ってました」と言いたくなる相談だ。
…..ということで、今回は、スギに特化して、木造住宅の柱がどのくらいの荷重に耐えるのかを見てみよう。
ここでは、50年で計算してみる。
この記事は、以下の様な方に、お役に立てると思う。
- スギの柱は弱いのではないか、と疑念を抱いている方
- 木造住宅を建てる予定の方で、部材選定に悩んでいる方(国産材?外材?など)
一般的な木造住宅の柱には、どれくらいの荷重がかかっているの?
以下に示す様な、ちょっと大きめの住宅を例に計算してみよう。
なお、計算の過程はスルーしても全然構わない(どうしても理解したい方のために示すだけだ)。
① 上の表から、1階の平均柱軸力(Ni)は以下のようになる。
Ni = ∑Wi/ni = 42174/71 = 594 kg
※ni : 柱の本数
② 耐力壁線ごとの重量に応じて、 594×0.5 = 297kg 、 594×1.0 = 594kg、594×1.5 = 891kg の3段階の柱軸力が想定される(詳細は省略)。
…..つまり、
いかがだろうか?
10センチちょっとしかない断面の柱が、50年もの間、1トンの荷重を支えないといけないのだ(軽自動車より重い)。
だんだん心配になってきました?
いつか、真ん中からポキッと折れるのでは、とか?
もったいぶるな
…..怖い(お約束)
…..では、今度は柱の性能を見てみよう。
柱1本が支えることのできる荷重を計算すると?
50年スパンで計算してみる。
ここも、計算の過程はスルーして構わない(見て欲しい部分だけを太字で示す)。一応根拠として示しただけなので、興味がある人だけどうぞ(煩わしいと感じる方のために文字を小さめにする)。
座屈試験(柱の圧縮試験)は、細長比(λ)によって短柱、中間柱、長柱に区分されている。
ここで、
λ=L/(√(I/A))…………………………………………(1)
ここでは、L(長さ)=300cm(管柱), 断面(A)=12cm×12cmを想定するので、
λ=300/√12=86.6となる
木質構造設計規準・同解説(建築学会)よりλ=30~100は中間柱に区分されるので、
この場合は中間柱に属することとなり、許容座屈応力度(Fk)は次式で求められる。
Fk=(1.3-0.01λ)Fc………………………………(2)
ここで、Fcにスギ無等級材の基準強度×1.1/3(50年後の強度)を当てはめると
Fc=(17.7×10.197)×(1.1/3)=66.18kgf/cm2
となる
この値と(1)式で求めたλを(2)式に代入すると
Fk=(1.3-0.01×86.6)×66.18=28.7kgf/cm2
となる
設計用軸方向圧縮力(N)は、N=Fk・Aで求められるので、
N=28.7×(12×12)=4133kgf
この値、約4トンは、スギの柱(4寸角)が50年間支えることのできる最低荷重を意味する。
つまり、先に述べた様に、
に対して……
つまり、みなさんのお家の柱は、実力の4分の1(25%)以下のお仕事しかさせていないのだ。
ちなみに、今では少ないが、3寸角(10.5cm角)だと、上の計算では2.6トンくらいまで耐える。なので、3寸角でも実力の40%くらいのみしか負担させないことになる。
実際に測ってみたら?
柱が持っている強さに対してどれぐらいの力を負担していたのか、実際の木造住宅の解体時を利用して実測した例がある。結果は以下の図のとおりだ。
これらを見ると、スギ、ヒノキ(4寸角)のいずれも、だいたい実力の4分の1(25%)以下のお仕事しかさせていないことが分かる。つまり、上の計算結果と一致する。
おわりに
以上示してきたように、住宅の柱さんたちは、そんなに過酷な労働を強いられているわけではない。
むしろ、楽な方かも?
たぶん、旦那さんのお仕事からすれば、負担率25%なんて、うらやましい限りではないだろうか?
おわり
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